大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(く)18号 決定

被告人 遠藤年男

〔抄 録〕

本件抗告理由の要旨は右被告人遠藤年男は窃盗被告人として昭和三一年七月四日水戸簡易裁判所に起訴せられ昭和三二年一月一六日同裁判所において懲役一年(但し未決勾留日数一五〇日通算)の判決を受けこれに対し被告人から控訴の申立があつたものであるが、右弁護人は昭和三二年二月八日右裁判所に対し被告人の保釈請求をしたところ同裁判所は同年二月九日未だ勾留を継続する必要ありとし右請求却下の決定をしたのであるが、被告人には定まつた住所あり身許も確実であつて逃走の惧は全くないのである。又右の如く第一審判決は己に言渡されており最早証拠湮滅の惧もないのである。且つ右被告事件は被害額僅かに五〇〇〇円程度の軽微な窃盗事件に過ぎず、己に勾留は六月以上に亘つており何等勾留の必要のないものである。しかるに原裁判所は右保釈請求を却下したものであり、この決定はまことに失当であるから、更に相当の裁判を求める為本件抗告に及ぶというに在る。

よつて昭和三二年(う)第三三二号被告人遠藤年男に対する窃盗被告事件記録を調査すれば、被告人遠藤年男が、所論のような判決を受けたこと及び所論のような保釈請求が為されたのに対し原裁判所がこれを却下したこと又被告人の住居が、水戸市水門町五八〇番地遠藤とし子方であることはまことに明瞭である。しかし右記録を更に検討すれば被告人には妻子なく実姉である右遠藤とし子方に単に一時的に寄宿していたに過ぎないものと認められ、又被告人は目下仮釈放中の者である。のみならず、被告人は軽微な事件ではあるが、本件公訴事実を極力否認しているのである。その他被告人の経歴、境遇等諸般の事情を綜合すれば、被告人には全く逃走の惧なく、且つ証拠湮滅の惧なしとはしないのである。即ち逃走すると疑うに足りる相当な理由があり、或いは罪証を隱滅すると疑うに足りる相当な理由があるときに該当するものと認められるのであつて、現在においては未だ保釈は為すべからざるものと認められる。原裁判所が右保釈請求を却下したのは相当であり、本件抗告はその理由のないものである。

(久礼田 武田 石井文)

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